<退職目前の憂い>
いよいよあと半年で定年退職となった時、ひとつ大きな問題を抱えていました。
それはとある部下の去就でした。
仮にA氏とします。
当時私には部下が22人いました。
A氏とは入社当時からほぼ同じ課で仕事をしていました。
技術的には非常に優秀で、興味さえあればどんどん仕事を持ってきて結果を出せる人でした。
10年ほど前、私はA氏の上司になりました。
長年の付き合いで、A氏がどのような性格で
どんな風に仕事を進めていくかは把握していましたので、
うまくコントロールしてそれなりの成果は出してもらっていました。
しかし、彼は人間関係では何度かトラブルを起こしています。
パワハラに近い行為で他の課とトラブルになったり、
A氏の部下から相談を受けたりしました。
そんなA氏を残して私が退職したらどうなるのでしょう。
私は不安になりました。
<客観的評価>
こんな風にA氏を評価していたのは私だけだったのでしょうか。
雑談で「A氏は・・」と同僚と話した時も、私と同じような感想を持っていました。
そこで、もっと具体的に技術的スキル、組織人としてのスキル、人材育成スキル等々何項目かについて、
A氏をよく知る周辺の管理職、仕事の相手組織の管理職にそれとなく聞いてみました。
客観的な評価を得られるよう、すべて同じような聞き方をしました。
すると、大体似かよった評価で、私の感触とも一致していました。
そしてこんなことも言われました。
「○○さんが退職したら、だれがA氏の面倒をみるの?」
そう、私が退職した後、A氏の上司になることを嫌っていたのです。
皆、A氏は技術的には他の技術者も一目おいていて、
目的を明確にしてA氏自身が納得している仕事であれば、
こんな心強い部下はいないと思っていますが、
扱いづらく、部下にはしたくないというのが、もう一つの評価でした。
<彼に合う仕事を探す>
仕事はできる、しかし人間関係はイマイチ。
特に他のチームと共同で成果を出す仕事は危険。
となれば、スタンドアローンでできる仕事が向いているのではないかと、
改めて考えてみました。
前々からそうは考えていましたが、彼の受け持っている仕事の専門性を考えると、
それもかなりの英断でリスクが高かったのです。
しかし、このままではますます組織としてのリスクも高くなりそうなので、
他の管理職とも相談し、とある業務をピックアップしました。
<移動先への打診と、本人の説得>
すぐにその業務の職場の管理職と相談しました。
ある装置を開発していく仕事で技術的にはかなり難易度の高いものでした。
しかもこの業務は自分で調べて自分で設計して作り上げていくもので、
ほぼ完全な一人作業でした。
完成すればかなり会社に貢献できる仕事でもありました。
相手の管理職もA氏のことはよく知っていて、扱いにくいことも承知していましたが、
それ以上にA氏の技術力を買ってくれていました。
これで移動先の受け入れに関してはOKとなったので、後は本人の意思次第です。
時間をとってA氏と面談をしました。
A氏にはショックだったようですが、
「この仕事はあなたにしかできない。この仕事を完成させることによって、
他の部署の業務が格段に効率アップするので、是非受けて欲しい。」と説得しました。
A氏は2回目の面談でやっと納得してくれました。
<安心して退職>
退職する2か月前の人事異動でA氏は移動していきました。
その後移動先の管理職の方に様子を伺ってみると、
何も問題はない、計画通りに運びそうだと言われました。
私は安心しました。
そして私も問題なく退職することができました。