私の友人に、デパートの販売員をしている女性がいました。
デパートで働けるなんて、とうらやましく思っていましたが、
友人は「毎日お客様の顔色をうかがってばかり。もう疲れた」とよくこぼしていました。
友人が勤務しているのは化粧品売り場です。
メイクが好きという理由で就職したものの、
自分が疲れている日も無理をして笑顔でいなければいけないことに、
友人はかなりうんざりしていたのです。
そんな友人の趣味は、部屋の模様替えです。
洒落たインテリアショップに詳しく、一人暮らしの狭い部屋でも
完璧にコーディネートできる特技がありました。
友人の部屋はシーズンによって西海岸風、ロココ調、ナチュラル系と姿を変え、
私も遊びに行くのが楽しみでした。
クローゼットには洋服よりも、クッションや丸めたカーペットが詰め込まれているのです。
友人に転職のチャンスが訪れたのは、デパートに勤め始めてから2年が経った頃でした。
よく化粧品を買っていく住宅メーカーの女性と親しくなり、
あるインテリア系雑誌の制作に関わってみないかと誘われたのです。
誘いを受けた当時、友人はかなり悩んでいました。
なぜなら彼女は昔から理系で、文章を書くことが不得意だったからです。
しかし、大好きなインテリアに関われるとあって、思い切って転職を決意しました。
それ以来、友人のライフスタイルは大きく変わりました。
オフィスに通勤はするものの、日中はほとんどの時間を執筆・編集に費やすことになったのです。
ときには取材に出かけることもありましたが、
もともとインテリアショップに詳しかったのが幸いして、取材先には困らないそうです。
転職して何よりうれしかったのは「他人の顔色を見ずに仕事ができること」だと言っていました。
友人の一番の悩みは、デパートの小奇麗な化粧品売り場で、
お客様の機嫌を損ねないよういつも気を張っている必要があったことです。
もちろん、接客が向いている人もいるでしょう。
しかし友人は、接客より、自分のペースで働ける仕事のほうが性に合っていたのでした。
就活中に、職業診断を受けた人も少なくないでしょう。
自分に向いている仕事が何なのか、診断結果を見ればすぐ分かるので大変参考になります。
ただ、実際に働きだしてから「自分にはこういう仕事のほうが向いている」
と気づくことだってあるはずです。
そんなとき、たとえ全く違う業界でも、
友人のように勇気を出して飛び込むことが新しい人生の第一歩になることもあるのです。