証券会社からマスコミ業界へ

大学卒業と同時に入社した証券会社を約6年間勤めた後、

ミニコミ紙の編集記者に転職した経験が私にはあります。

バブル経済がはじけつつあった平成4年3月の事でした。

 

証券会社での仕事が、決してつまらなかった訳ではありません。

東京本社勤務でしたし、資本市場の最先端というダイナミックさを、

それなりに楽しんでいる処もありました。

 

ただ変動相場という環境下で売買される金融商品というのは、

原油価格や外国の経済事情など他の要因によって乱高下してしまうという、

つまり外部要因によって振り回されるという

如何ともしがたい運命的なものに嫌気がさしていました。

 

例えばアメリカで株の大暴落が起こったとか、

中東できな臭い事件が起こったとなると、

相場のキーワードが突如として変ってしまう訳です。

 

調査部の同期などは会社に泊まり込んで直近の相場予測について研究し、

レポートを作成したりしているのですが、そうした努力は概ね水泡に帰してしまいます。

 

現実に行き詰まりを感じると、

好きな文学の世界に逃避するというおかしな性癖が私にはありました。

決して読むのが速い方ではないですし、

「この小説、何が言いたいのかさっぱり分からん」といった事もままあります。

にも拘わらず、何故か文学を好んでしまうのです。

 

ならばいっその事、文章を書いて食べていけば?そんな心の声に従って、

未経験を顧みず、私は意を決して東京下町地域の情報を発信する新聞社に応募したのです。

 

新聞社は、高度成長期に建てられた様な、やや古さを感じさせるビルの4階にありました。

証券会社では最新のビルの豪勢なディーリングルームという職場環境でしたが、

何故か私はむしろこの古いビルに好感を持ってしまったのでした。

 

中に入ると、かすかにインクの匂いが漂い、

書棚や社員の机の上には地域の歴史についての文献や

新聞のバックナンバーなどが積み重ねられていて、いかにも編集室といった感じです。

そんな雰囲気に圧倒されてか、

つい私は「未経験だし、落とされそうだな」と、弱気になったのを覚えております。

 

やや笑顔を作って出迎えてくれた面接官は、編集長でした。

生き馬の目を抜くと言われる相場の世界で生きる野武士集団の如き証券会社の管理職とは違って、

その編集長は繊細でフランクで、何処か知性を感じさせる様な人でした。

各業界には、それぞれに合ったカラーみたいなものがあるものだなと、

つい思ってしまいました。

 

私の履歴書を見た編集長は、開口一番「えっ!、証券会社に居たの?」。

私は素直に「はいっ」と、元気よく応えました。

「今までは、料亭で千円以上もするランチだったのが、

うちに来ると恐らく区役所の食堂で300円のカレーライスになってしまうよ。

それでも大丈夫?」と、私に問いました。

すかさず私は「はいっ、大丈夫です」

自分でも信じられない程、決意が固まっていたのでしょうね。

 

続いて入社試験です。

区役所発行のニュースリリースを読んで、それを記事化するというものでした。

新聞記事の書き方など全く分からない私でしたが、とにかく必死に鉛筆を走らせました。

ニュースリリースの一端に、児童たちによる稚魚の放流という文がありました。

証券会社での仕事ではお目にかかれない、何か人間的な温かみを感じたのを覚えております。

 

数日後の午前中、何時ものように証券会社で仕事をしていた私あてに、

新聞社から電話がかかって来ました。

多分、不採用だろうと決め込んでいた私は、少し驚いて受話器を受け取りました。

 

例の編集長の声です。

「お気持ちに変わりは有りませんか?」

どうやら採用の通知らしいので、私は本当にびっくりしました。

「はい」と私は、やや周囲に気兼ねして幾分力強く答えました。

「では採用とします」

 

その日の午後は、あまり仕事に身がはいりませんでした。

新たな道を歩む希望と、転職というタブーに早くも手を出してしまった

という罪悪感にも似た気持ちが入り混じって、実に複雑な心境でしたね。

 

新しい職場では、未経験という事もあって、がむしゃらに頑張りました。

書いた記事は、殆どが修正・加筆され、私の地の文は一つも残っていない。

そんな日々が半年くらい続きました。

それでも心の中は、何か熱い情熱みたいなものがたぎっていたのです。

 

処で区役所の食堂の300円のカレー、結構美味しかったです。






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